歯牙外傷・歯牙破切について

歯牙外傷・歯牙破切について対応と治療方法

「歯が折れた!抜けた!」

顔をぶつけてしまったり、コケたりして歯が折れたり抜けてしまうことは誰の身にも起こりうることです。

歯は自分の体の一部なので、急に折れてしまったり抜けてしまったりしてしまうと本当にどうしようかとパニックになってしまいます。本項では、歯が折れたり抜けてしまったりした時のご自身での対応方法と治療方法についてご案内させていただきます。

歯が折れてしまった時
(神経まで到達していない時)

神経を傷害せずに歯が折れてしまった場合は歯の形を復元するための処置をメインに治療いたします。
可能であれば折れてしまった歯の破片はご持参いただくことを推奨いたします。

歯の形を復元するための処置は大きく2種類に分類されます。

①詰め物で歯の形を復元する

失ってしまった歯の形を人工物で成形し歯の形を戻します。
明確な基準はないですが、歯の大部分が残存しているときは、残存している歯に詰め物を入れることで見た目を改善いたします。

代表的な詰め物の種類はコンポジットレジン(CR)です。白く透明感のある歯科用修復材料で天然歯よりも少しだけ柔らかく、損傷した歯に対する負担が小さく、即日修復も可能なため使用頻度が高いです。一方でコンポジットレジンは歯よりやわらかいので過度に噛み合う歯牙に対しての修復は困難(脱離しやすい)となります。

折れてしまった歯のかけらが綺麗に残っている場合はコンポジットレジンで破折片を接着できることもあります。
コンポジットレジン修復は、もちろん保険適応可能なので数千円の治療費で可能なことがほとんどです。

奥歯で噛む頻度の高い歯に対してはインレー修復(歯の形を整え、型どりをし、後日出来上がった修復物をセットして完成させる)を採用いたします。保険適応のメタルインレー(保険適応3割負担で約3000円程度)や白いセラミックインレー(自由診療19800円+税)などで修復可能です。一度修復したが何度も取れてしまう場合は被せ物を検討いたします。


②被せ物で歯の形を修復する

歯牙が大きく折れてしまい、原型がなくなってしまった場合は、歯の表面の形を整え、人工物を当該歯にすっぽりと被せる被せ物を採用します。

折れてしまった歯は外力により歯にたくさんのヒビも入ってしまうので、そのひび割れから2回目、3回目と歯が割れてしまわないように被せ物で覆い歯を補強する役割もあります。

保険適応可能なメタルクラウン(保険適応3割負担で約5000円)、ハイブリッドセラミッククラウン(保険適応3割負担で約9000円)、自由診療の白いセラミッククラウン(単色仕様19800円+税/積層仕様59800円+税)などが使用可能です。

大切な治療後の注意

目視で歯牙の破切線が神経に到達していなく、かつ痛みも少ない場合は基本的に神経は保存したまま歯の形を修復しますが、一度大きな刺激を受けた歯の神経が数ヶ月後に壊死してしまい歯が黒く変色してしまうこともあります。
時間がたってから神経が死んでしまうときもまれにあるため、
詰め物での修復後は少なくとも1-2年は定期健診で経過観察が必要です。

歯が折れてしまった時
(神経まで到達している時)

歯が折れてしまい、一度神経が露出してしまうと神経は自然治癒しないので外界に露出し汚染された神経は綺麗に取り除く必要があります。

歯の神経が露出しているということは歯の真ん中以上で歯が折れてしまっているので神経を取り除いたのち、被せもので歯の形を復元します。上記の②の被せ物で歯の形を修復する治療を神経を綺麗に取り除いた後に行います。

神経まで到達して折れてしまった歯は痛みも伴うことがほとんどです。歯の神経の治療をしっかりと行い痛みが取れた後に被せ物の治療となります。

歯が折れてしまい、かつ歯がグラグラになってしまっている(歯が脱臼している)場合は神経の治療と同時に隣の歯と固定を行い動揺がなくなった後に
被せ物で修復します。

動揺が1㎜以上残ってしまって治癒した場合は隣の歯と固定して最終修復とすることもあります。
固定の期間はおおよそ2~8週間です。歯の神経の治療+歯の痛みの治療+歯の動揺の治療を状態に応じて行う必要があるでしょう。

骨の下で歯根が折れてしまった時

①歯根長の上部2/3で折れてしまった時

歯根上部2/3の位置で歯根が折れてしまった場合は残念ながら抜歯する必要があります。歯の頭の部分が折れた場合は人工物で補修が可能ですが、骨の中では折れてしまった破切尖をくっつけることが不可能なためです。
抜歯をしてブリッジやインプラントや入れ歯を検討します。

②歯根長の下部2/3で折れてしまった時

一度骨の下で折れてしまった歯は接合不可能ですが、骨の下のほうで折れている場合は、その折れてしまった一部を歯茎側から穴をあけ摘出することで上部2/3の歯を保存することが可能です。
(歯根尖切除術)
しかし、神経は破断してしまうので歯の上部から汚染された神経は取り除き補強のために被せ物をする必要があります。

歯が脱臼し、歯の位置が
ずれてしまった場合

歯の位置がずれてしまった場合は、歯を移動させ元の位置に力を加えて戻します(整復)。
戻しただけではまた数日して歯が移動してしまうので、横の歯と固定をして歯と骨が生着するのを待ちます。(2か月程度)

一般的には歯が移動するほどの力が加わった歯は破切も伴っているので、
上記の治療も併用して進めて行く複合治療となります。

歯が抜けてしまった場合

歯に大きな力が加わり歯の原型を保ったまま抜けてしまう場合があります。

当人は間違いなくパニックになってしまいますが、落ち着いて抜けた歯を探し、コンビニで牛乳を買い、抜け落ちた歯を牛乳につけて歯医者さんに30分以内に来てください。

牛乳が手に入らない場合はそのまま可能であれば15分以内に歯医者さんに来てください。
抜けた歯を抜けた穴に即時差しこみます。

歯には歯と骨とをつなげる歯根膜がくっついています。この歯根膜をいかにダメージを負わさずに抜けた穴に戻せるかが勝負となります。

歯根膜にダメージを負わせないために注意すること

  • 水で洗わない・漬けない(砂や汚れが付いていても大丈夫です)
    水で洗うと歯根膜が浸透圧で破壊されます
  • 牛乳につける
    (歯根膜と浸透圧が類似しているので歯根膜のダメージを最小に抑えてくれます)
  • 歯の根の部分は絶対に触らない
    (歯根膜が傷つきます)
  • とにかく早く歯医者さんに駆け込む
    (歯根膜が元気なうちに歯医者さんに戻してもらいましょう)

戻しただけではすぐ抜け落ちてしまうので両サイドの歯と固定し、歯と骨が生着するまで2か月程度おいておきます。歯に動揺が少なくなり生着が確認できたら、被せものを単独か横の歯と連結して固定するか動揺具合に応じて決定いたします。

一度歯は抜け落ちてしまっているので歯の神経の治療をする必要もあります。